時空自在

タンジールから中国へ・そして帰還

『虎よ、虎よ!』のイカれぐあい

古典SFにハマっていて、アルフレッド・ベスターによる1956年作『虎よ、虎よ!』を読んだ。テレポーテーションとかテレパシーとか何やらなつかしい。文庫のカバー画が秀逸。

読み物としてはメチャ面白い。

一方で、主人公の行動原理は理解出来るが共感出来ない。女性の描き方が差別的っていうのは50年代の作品なので置いておくにしても、唯我論に振り切った人物っていうのはどうも私には馴染めない。

宇宙空間に見棄てられた主人公が見棄てた者を突き止めて復讐しようとする話。なぜ復讐するのかの省察はなく、ひたすら直感的に目的を果たそうとする。そして自らの復讐の過程で複数の重要な脇役を破滅させる。そこには動機や行動規範はなく、ただ追い求める結果があるだけ。

中盤過ぎ、主人公が未来へタイムスリップする場面、過去に主人公が破滅させた人物が主人公をとっくに許していたというちょっとしたシーンに、何というかストーリーのご都合主義を感じた。 許さないだろあの事は。

SFとしての意匠は豪華絢爛で、スッゲーと思いながら楽しく読めるんだけど、肝心の人物の葛藤の部分に入っていけない。

物語としては脱構築小説にカテゴライズされると思う。単純なストーリーのようでいて、プロットの脈絡が破壊されている。50年代の作品だけど60年代以後の破壊や退廃を先取りしている。

だから構成が勧善懲悪になっていないというのも肯ける。

それでもラストは予期せぬ形で終わり、余韻が心地良かった。