時空自在

タンジールから中国へ・そして帰還

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』についての小説技法的紹介

私達世代ではハマった人の多い映画『ブレードランナー』の原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(フィリップ・K・ディック原作)を今更ながら読んだ。
いろいろ感想を書きたくなったがマニアックに書き込む時間がないので、以下簡単に小説で用いられる【小道具】【動物】【登場人物】の順でノートっぽく記したい。
【小道具】
「フォークト=カンプフ感情移入度測定法」:
 人間とアンドロイドを区別する検査キット。生体の痛みの反応速度を測定。
「共感ボックス」:
キリストを彷彿とさせる預言者マーサーと融合体験するVR装置。殆どの人間はマーサー信者。
「ネクサス6型」:
最新アンドロイド。人間との区別が極めて困難。
アンドロイドを小道具に含めるか登場人物に含めるかは意見が分かれると思う。また、その是非を論じる事じたいが本作のテーマのど真ん中だと思う。
【動物】
ストーリーを動かしていくものだけで羊、フクロウ、猫、山羊、クモ、ヒキガエルなど。ただしこの中には電気動物も含まれるので、厳密に言うと小道具に含めるべきものもある。シナリオセンターでは小道具と動物を区別しなさいと教えられた。それはともかく、どれが生体でどれが電気仕掛けか自体が物語を進める要因となる。クモだけは最後まで生体か機械かわからない。
【登場人物】
リック・デッカード
映画でおなじみアンドロイドを狩る賞金稼ぎ。
ジョン・イジドア:
核戦争により生殖と知能が遅滞した「特殊者」。地球外への移住を禁じられる他、様々な差別にあっている。
フィル・レッシュ:
リックと同じ賞金稼ぎ。アンドロイドとセックスし、その後に殺す事を厭わない。
人物については、私としてはこの3人がこの物語のテーマを体現していると思っている。
リックはアンドロイドに恋愛感情を抱きかけ、それがこの物語のクライマックスへ連なっていくが、どうなっていくかは読んで確かめてほしい。
リックの妻も出てくるが、妻イーランは専業主婦で夫を家で待ち、夫に心の安寧をもたらす存在として描かれていて、現代だったら女性差別と言われかねない。
本作のテーマはずばり「人間とは何か、生命とは何か」。ネタバレにならないように私なりにそのテーマを汲み取るならば、人間とは、自分自身はもとより他の生命、世界への不安をどうしようもなく抱えている存在なんだなあという事です。当たり前だけどそこに正解は無い。
本作の発表は1968年。 人工知能の有限性を論じたフレーム問題が初めて提起されたのが1969年。この小説ではいろいろ時代錯誤の面はあるにしても 小説家の直感がいかに時代を先取りしているかがわかる。
まだ読んでいない人で興味ある人は一読に値します。