時空自在

タンジールから中国へ・そして帰還

どちらかというと社会・思想

『日本の弓術』 全体主義の時代のオリエンタリズム

『日本の弓術』(オイゲン・ヘリゲル著) 戦前、日本人弓術家の薫陶を受けたドイツ人哲学者が没我の境地に至るまでを簡潔に綴った書。 著者ヘリゲルは戦後非ナチ化法廷で「消極的な同調者」との判決を受けている。 日本に滞在していた時、弓術を通じて感動的…

ハーバード・スペンサー ファンダメンタルな自由思想

ハーバード・スペンサーを読んでいる。 スペンサーは19世紀イギリスの哲学者で、一般的には社会ダーヴィニズムの提唱者として知られる。ダーウィンの進化論のアナロジーを展開している箇所は本書には見当たらないが。それよりも、小さな政府を主張し、個人が…

冷笑系の起源~加藤典洋『言語表現法講義』批判

加藤典洋『言語表現法講義』は1987年から9年間に渉る、氏の明治学院大学での講義をまとめた書である。 本稿では本書の「第六回」の、多少なりとも社会、歴史に触れた部分に限って批判的に言及する。それ以外の、文章作法について述べている本論は全て感動を…

日本人の想像力(ゲルニカ・重慶・東京・シリア~大空襲の日に寄せて)

3月10日、東京大空襲の日が近づいています。今年は75年目です。1945年3月10日未明、東京の下町の住宅地を標的に数百のB29が襲来し、密集する木造の日本家屋に焼夷弾を投下しました。一晩で10万人が主に焼死しました。罹災した人々の中には私の曾祖母もいます…

韓国ダークツアー③ 光州

(承前) 次の日の朝早く済州から光州に空路移動した。 1980年光州抗争。始まった日付を以て「5・18民主化運動」と呼ばれる。 当時、私は中学二年。隣国から届く突然のニュースに驚き、それがどういう事なのか理解する事に苦しんだ。当時愛聴していたTBSラジ…

韓国ダークツアー②

悪天候のため1日遅れで済州島に到着した。 空は曇り、丘陵部では霧が立ち込めるほどだった。 昼過ぎに済州に着き、午後遅く済州4.3平和公園に行った。 丘の上のとても広い敷地に、1948年4月3日済州事件の数万人と言われる犠牲者を弔うメモリアルパークがある…

韓国ダークツアー①

4/9から三泊四日で韓国に行ってきた。 目的地は済州島および光州。なぜその地なのか、は追って本文を読んでいただきたい。 成田はこんなに晴れていた。 搭乗機が何と私が20歳の時、初めて海外に行った時に乗ったボーイング747。飛行機オタクではないのだが少…

平成の終り③

【人口減少】 私は、経済的凋落の根本要因は人口減少だと考えている。 下記リンクを一読されたい。 https://toyokeizai.net/articles/-/218313 結論を言うと、今後50年から100年のスパンで1,000万人単位の移民を受け入れていかなければこの社会は崩壊する。 …

平成の終り②

(承前) 【日本の経済的地位の相対的低下】 日本のGDPが中国に抜かれたのは2010年。現在では中国のGDPは日本の約2倍である。2050年には中国のGDPはアメリカを抜いて世界最大となり、日本の約7倍になっているといわれる。 また、1980年代~90年代にかけて世…

平成の終わり

平成、それは確かにエポックメイキングな時代だった、ディストピアへの転落という意味において… 前回「平成最後の夏に」というタイトルでブログを書いたのは昨年の8月も終わりの頃だった。 一つの時代の節目を振り返ってみようと気楽な気持ちで書き始めたが…

町田総合高校と忠生中事件

私は町田で育ちました。 出来れば町田総合高校の生徒達、先生方、親御さんたちに読んでもらいたいと思ってこれを書いています。 町総生は当然忠生中は知っているよね? ツイッターのハッシュタグ #都立町田総合高校 は殴られた生徒を批判する書込が多いけど…

平成最後の夏に(奇妙な果実)

8月も終わろうとしている。 今年の夏は暑かったですね。 きっと、「災害級の暑さ」として記憶される2018年の夏だが、私は太陽に焼かれながら晴天の青さに歓喜していました。 そういえば今年は「平成最後の夏」だ。来年の皇室代替わりに向けて、世間では「平…

シリア内戦の終らせ方

アメリアのアサド軍事基地攻撃によってシリア内戦のページがまた一つめくられた。シリア内戦が悲劇的様相を深めている第一の要因はアサドの強権政治(およびロシアの強力な支援)にあるが、もう一つの要因は国連安保理の機能不全である。アメリカの今回の攻…

アメリカの軍事介入はシリアを地獄から救うか?

アメリカがいよいよアサド政府へ攻撃を開始する見通しです。この攻撃は去年4月にそうだったように軍事基地をピンポイントで狙った限定的なもので終るでしょうか。それとも、レッドラインを越えたアサド体制を崩壊に追い込むほどの、新たな戦争と呼べる規模の…

私的・情報の読み方

いわゆる「投射型思考」の問題 「投射型思考」 ぐぐっても出てこないが私の造語ではない。黒田寛一の造語である。どういうことか? 人間はある思い込みが形成されると、その思い込みを現実に当てはめようとする。事実から出発して思考するのでなく、観念から…

安らかに眠ってください 過ちは繰り返しませぬから

私は「安らかにお眠りください。過ちは繰り返しませぬから」という原爆慰霊碑に刻まれた言葉は、被爆国国民としても、一人の人間としても尊いものだと思う。 かって慰霊碑の正面に立った時は感動で身体が震えたものだ。人類の共通の財産とはこういう事なんだ…

『性暴力の理解と治療教育』ノート

(藤岡淳子著/誠信書房) 今回記すのは書評ではなく、表題の書についてのただのノートだ。 性犯罪加害者の再教育を担ってきた筆者が本書にまとめた「性犯罪」「性犯罪加害者」の捉え方を私なりに拾い出した。 「書評」でなく「ノート」だと断ったのは、後述…

3ギニー

表題の書はヴァージニア・ウルフ著、昨年10月に平凡社から邦訳(片山亜紀訳)が出版された。 原著は1938年6月に上辞された。ナチスのチェコ割譲とポーランド侵攻の狭間の時期、またスペイン内戦が戦われヨーロッパが大戦の予感に慄いた時代である。 またイギ…

書評『「革共同50年」私史』(尾形史人/社会評論社)

筆者は1950年生まれ、68年から中核派(本稿では革共同=革命的共産主義者同盟を通称である中核派と称す)の活動家となり、73年三里塚第二次強制測量阻止の実力闘争の容疑で指名手配、12年の地下生活の後に85年被逮捕・92年満期出所して中核派の活動に復帰した…

なぜあの戦争に反対しなかったのか?

「なぜあの戦争に反対しなかったのか?」 この設問のリアリティ自体がいまや風化しているといえるだろう。 もう、あの戦争に負けてから72年もたった。 私は1966年生まれ、敗戦から21年もたってから生まれた。そして、敗戦からわずか21年後に生まれ…

規範的女らしさをこえて 書評『女子プロレスラーの身体とジェンダー』(合場敬子著/明石書店) 筆者である合場敬子氏は、私と同様、もともと女子プロレスに深い関心があったわけではない。「まえがき」にあるように、かって腰痛により精神的な意欲を喪失した…

表現の自由と表現されることの意味 誰でも知っている女優の炎上事件が話題となっている。 ハフィントン・ポスト3月6日号『エマ・ワトソン ノーブラ批判に反論「フェミニズムの本質は自由と解放」』という記事が紹介しているのだが、国連女性大使でもあり、…

かってサンカと呼ばれた人々がいた

かってサンカと呼ばれた人びとが日本にいた。 定住地、つまり定まった家屋をもたず深山幽谷を廻遊する流浪の民の存在を耳にした事がある人も少ないないのではないだろうか。 柳田國男を始めとして民俗学の研究対象ともなっており、日本人の文化・習俗の”ロス…